デジタルものづくりをのぞいてみよう①「人とものを繋ぐ新しい視点を得る機会に」
世界中がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めているなか、学校教育でもデジタルを活用したものづくりの推進を文部科学省も掲げ(高等学校DX加速化推進事業:DXハイスクール)、学校教育において3Dプリンタ、VR動画作成等を含む教育の推進が始まっている。そこで、すでに先行して3Dプリンタを活用してデジタルものづくり教育を試行をしている教員や生徒たちの活動を紹介する。
私物として購入した3Dプリンタが家に置けないサイズということもあり学校のコンピュータ室に設置していた武善先生。「なになに?」と興味を持って寄ってきた生徒に「使ってみる?」と言ったことをきっかけに3Dプリンタの放課後講座を実施。教材としての手応えを感じて始まったのが、情報の授業を使った3Dプリンタを扱うカリキュラムだ。
立体的なものづくりの魅力を伝える新しい教育
大学時代に三次元知覚の研究をしていた武善先生。情報科の教員になって現場で教えてみると、様々なものづくりの技術が世の中にある中で、立体的なものづくりに関しては教える機会が無いことに気がついた。そんなとき、学校の授業で3Dプリンタを導入した事例を聞いた。まずは私有の3Dプリンタを学校に置いてみると、思った以上に生徒や教員の関心を惹きつけ、カリキュラム化が決まった。「高校生になると小中の時より手を動かさない概念的な学習が多いので、ものづくりって楽しいな、と思う時間が1回はあってもいいだろうと思って始めました」。選択科目として1週間に2回、高校3年生約40名に開講していた「情報の科学」という授業で扱うことになった。
自ら設計してつくることの意義を見出す
「学校紹介に必要なものを考えてみよう」などのテーマ設定に沿っ て、生徒が自分で作りたいものを考え、モデリングし、3Dプリンタを通して形にしていく。自ら設計したものをそのまま印刷できることは刺激的だと生徒の反応から感じたという。授業後のアンケートによると、自身が頑張って作ったものに愛着が湧いた、機械で作ったものが手抜きなわけではないと気づい たという回答が得られた。「便利なものがあったら買うという従来の考えに加え、自分で作るという発想を持ってほしいんです」と武善先生はいう。
つくる体験を通じて社会を想像する
身の回りのUI(ユーザーインターフェース)を評価する授業では、生徒は使いにくいものを書き出して批判する。ところが、自分で手を動かして作らせると、既製品のよくできている点に気づく。作った人やその人が関わる業界に対するイメージが変わり、ものづくりに対するリスペクトが生まれる。他にも、3Dプリンタが身近になったことで武器製造の課題を考察する生徒や、人工臓器の成形を想像する生徒もおり、想像以上に、生徒たちが3Dプリンタを活用する未来を考えるようになった。作る選択肢を得るだけでものづくりへの意識は変わる。その選択肢の一つとして、3Dプリンタの活躍が期待できるだろう。