【パートナーインタビュー】大学と地域が「ものづくり」でつながり、広島から社会を変革する人材を育てる

日本のものづくり教育の現状に強い危機感を抱くのは広島工業大学を設置する学校法人鶴学園の鶴 衛(つる まもる)理事長・総長である。建学の精神「教育は愛なり」、教育方針「常に神と共に歩み社会に奉仕する」の教育理念のもと、広島の地で小学校から大学までの教育活動を一貫して展開している。そんな鶴理事長・総長に次世代を担う人材育成にかける熱い想いと、広島工業大学が挑む「ものづくり教育」の新しい構想をうかがった。その言葉の端々からは、未来への強い情熱と、広島から新たな社会の変革を目指す揺るぎない決意が感じられた。
「ものづくり」の灯を消さない
「近年情報系学部が人気を博しているが、電気、機械、土木、建築といった、私たちの生活の基盤となる工学を支える人材が減り続けていることは、日本の将来にとって深刻な問題だ」と鶴理事長・総長は警鐘を鳴らす。背景にあるのは、中学校での技術の授業以降ものづくりに触れる機会が減り、その面白さを知らない子どもたちが増えている現状だ。本来、子どもたちは自分で考えて手を動かすことに楽しさを感じるはずだが、日本ではその体験が不足している。「子どもたちが『ものづくり』を通じて達成感や創造する喜びを体験することこそが、日本のものづくりを再び活性化させる鍵だ」と語る鶴理事長・総長は、自身も中学・高校時代は数学や物理が苦手で文系に進んだ経験から、「頭は文系、心は工学系」だと笑う。しかし、その経験があるからこそ、早い段階で子どもたちがものづくりの楽しさに触れる機会を作りその興味を育て続けることの重要性を痛感している。そのため、大学が果たす役割は極めて重要だと、鶴理事長・総長は力を込めて語る。
「M-Hub」が拓く、地域連携のものづくり
その熱い想いを具現化するため、広島工業大学は地域社会に向けた大胆な一手を打ち出した。それが、「Making(つくる)」をつなぎ、楽しさを実感してもらう「Hiroshima Making Hub(M-Hub)」の設立だ。3Dプリンターやレーザーカッターなど、最新のデジタルファブリケーション機器に触れ、自由に創作活動を楽しめるFab Labを中心に、3D CADによる設計や各種シュミレーションなどを行えるDigital Lab、本格的な金属加工が行えるMetal Lab、木材加工が行えるWood Labがある。この施設Fab Labは、広島工業大学の学生だけでなく、来年度以降順次、地域住民や近隣の学校や子どもたちにも開放される予定だ。「M-Hubでの体験を通じて、誰もが気軽にものづくりに挑戦し、ワクワク感を体験してほしい」と鶴理事長・総長は期待を込める。2025年4月に開催されたキャンパスの一般公開日には、親子連れがFab Labに集まり、熱心にものづくりに取り組む姿が見られた。「子どもたちが自分で考え、試行錯誤し、実際にかたちにすることで喜びを感じる。その喜びに触れる瞬間を目にしたとき、M-Hubをつくって本当に良かったと実感しました」と鶴理事長・総長は目を細める。M-Hubは、大学が持つ知識や技術を地域社会に還元し、企業との連携を強化することで、地域のものづくりを支援する拠点となることを目指している。鶴理事長・総長は、地域に根ざした地方私立大学だからこそ地域社会との連携を強化し、「つくる」を通じて地域をつなぎ、活性化させるエンジンとなることを目指している。

日本初の次世代のための「ものづくり学会」に向けて
日本のものづくり教育を再熱させるため、鶴学園の広島工業大学高等学校では、3Dプリンターなどを活用した「K-STEAM類型CLコース」を設け、デジタルものづくりの1つの空間でもあるCLL(クリエイティブ・ラーニング・ラボ)を活用した新しいものづくり教育を始めた。「まずは、何かものを作ってみよう。たとえ失敗してもいい。とにかく手を動かしてみることが大切だ」という鶴理事長・総長の言葉には、若者たちがものづくりを通じて自信をつけ、未来を切り拓いてくれることを心から願う気持ちが込められている。 そんな次世代の「ものづくり」への情熱を育む仕掛けを、ものづくり産業で世界に貢献している広島からスタートできるのではないかと構想している。「広島県内には、ものづくりへの危機感を持っている企業や人がたくさんいる。そうした人々が集まり、知恵を出し合い、次世代を担う人材を育成する組織を立ち上げたい」と鶴理事長・総長は語る。そして、2027年に全国のものづくりに思いのある中高生が集まり切磋琢磨する「ものづくり学会」の構想を「ものづくり0.」のプロジェクトの1つとして検討している。「つくる」でどこまで人と人、人と課題が「つながる」ことができるか。広島工業大学の挑戦はこれからが本番だ。
